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コラム
2012/05/04 農家の夫婦事情

昨日、また夫婦喧嘩をしてしまった。まあ、今回は“小爆発”程度だったので、その日のうちに何とか和解できたのだが・・・。

たまにテレビやラジオに出ている人が「夫婦喧嘩をしたことがない」「喧嘩にならない」などと言っているのを聞くことがあるが、私には信じられない。なぜそんなことが出来るのか。

そういう夫婦は、逆に、きちんと相手に向き合っていないのではないか、仮面夫婦の可能性もある、などと勘ぐってしまうのは私だけ?夫婦になれば日常生活という現実の上を歩いていくわけで、細かいことや下らないことで意見が合わないことも多い。

お互いのバイオリズムというか、体調の良し悪しも大いに影響する。ちょっとしたことで喧嘩になる、それも人情というものだと思う。

 

で、私たち夫婦のことを少し話してみる。私たちは2000年に結婚し、今年で結婚生活13年目。2003年に農家になって今年農家生活10年目。農家になる前は比較的新婚だったこともあるのかも知れないけれど、あまり夫婦喧嘩はしなかった。まあ、年に2〜3回くらい。ところが農家になって劇的にその数が増え、月に1〜2回程度(年にすると20回くらい!?)。いやすさまじい変化である。

当初は新しく農業を始めて大変なことも多いし慣れるまではそれも仕方あるまい、そういう考え方もあった。が、時が経ち、農業生活も10年目を迎えて未だその数が減らないのはなぜか。

まかりなりにも経営は成り立ち仕事にも慣れてきたはずである。
減らないどころか微妙に増えている気さえもする。なぜだなぜなんだ。

うちの奥さんのよく言う台詞を挙げてみよう。

「私は農家なんかもともとやりたくなかった(←私が農家になりたいと言い出した)」

「親も親戚もいない茨城なんかに来たくなかった(←私たちは宮城県の出身である)」

「毎日3食ご飯を作るのがどんなに大変か分かっていない。私の友達のだんなは朝ごはんを食べないしお昼ごはんは外食だから夜ご飯を作るだけで良いらしい。何で私はそんなにご飯を作らなければならないのか」

「自分だけ働いて良い気になっている。家事や子育ては立派な仕事である」などなど。

実際はちょっと文章に出来ないような罵詈雑言が吐き捨てられることが多い。たまにいくつかの固体が飛んでくることもある。

まあ、いろいろ分析するに、夫婦で農家を営むと、一緒にいる時間がちょっと考えられないくらい長い、というのが一番良くないのではないかと思える。サラリーマンの方だと出勤してから帰宅するまでは分かれて生活しているだろう。ずっと一緒にいるのはせいぜい休日だけ。我々農家の夫婦は朝も一緒で昼も比較的一緒にいる。
で、夜も顔を合わせている。休日はあまりない。

これではいくら100年の恋を経て結婚した者同士でも飽きてくるであろう。嫌になるだろう。適切な距離を置きたいと考えてはいるのだがこれがなかなかどうして難しいものである。私たち夫婦に限ってはお互い趣味らしいものもない。そして仕事はいつも忙しい。

 

と、先日夏目漱石の『硝子戸の中』というエッセーを読んでいて、はたと膝を打った。

なかに「先日我が家に来客があったようだが私は夫婦喧嘩をしたばかりで心象が悪く、お帰りいただいた。そうしたところ・・・」

というくだりがあり私は思った。夏目漱石といえば超インテリにして泣く子も黙る文豪である。その漱石も夫婦喧嘩をしており、

頭にきて腹が立ってお客さんを無碍にするとは!

何と人間らしい。しからば私だって人の子である。夫婦喧嘩のひとつやふたつ(もっと多いけど)あって然るべき。むしろそれは悪いことではないのだ(良いことでもないだろうけれど)。そう頭を整理することにした。「喧嘩するほど仲が良い」なんて言葉もある。

農家を志している夫婦の方がもしこの文章を読んでいるとしたら、私は彼らに言いたい。農家になると夫婦喧嘩が増えますよ、と。でも同時にこうも言いたい。それでもなお夫婦であり続けること、農家であり続けることが大事だ、と。


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